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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)229号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 本願発明の概観

成立に争いのない甲第二号証(本件出願の公告公報)によると、以下の<1>ないし<6>の事実が認められる。

<1> 本願発明は、コーキングガンに装填して使用するようにするコーキングガン用室温湿気硬化性一液シーラント包装体に関するものである(同公報第二欄第二五行ないし第二七行)。

<2> 現在、室温湿気硬化性一液シーラントは主にアルミチユーブ、カートリツジあるいは金属缶に充填された上で市販されている。しかし、これらの容器に充填された室温湿気硬化性一液シーラントの貯蔵可能期間は一般に一年以上であり、充填されてから使用されるまでの実用在庫期間中に硬化することはない(同第二欄第二八行ないし第三四行)。

<3> これらのうち、カートリツジに充填されたものは、コーキングガンにカートリツジを装填するだけでよく施工作業は容易である。しかし、容器コストが高く、施工後には空容器がそのままの形状で残るため廃棄の処理が問題となる(同第三欄第三行ないし第八行)。

<4> そこで、このような廃棄物処理の問題を解決するものとして、樹脂フイルムから成る円筒状容器にシーラントを充填し、その両端を結紮して充填包装物としたものが提案されている。この場合、コーキングガンに装填してシーリング施工をした後、樹脂フイルムの円筒状容器が小さく押し潰されてしまうため、カートリツジに比べて廃棄物量を著しく減少するというメリツトはある。その反面、容器を構成する樹脂フイルムの透湿防止性が一般に完全でないので、実用在庫期間中にシーラントが硬化してしまうという致命的な欠点がある(同第三欄第九行ないし第二〇行)。

<5> 本願発明は、樹脂フイルムでは、室温湿気硬化性一液シーラントに対する透湿防止性が完全でないため、実用在庫期間中に室温湿気硬化性一液シーラントが硬化してしまうという点を解決し、樹脂フイルムから成る円筒状容器中の室温湿気硬化性一液シーラントを変質硬化させることなく、長期間保存することを主な目的とする。このため、本願発明はその要旨とする構成を採択した(同第三欄第三三行ないし第四〇行)。

<6> そして、本願発明の要旨中にある、外装のアルミニウムラミネート樹脂フイルム及びアルミニウム蒸着樹脂フイルムは、一般の樹脂フイルムに比べて著しく防湿効果があるため、柔軟な樹脂フイルムから成る円筒状容器内の室温湿気硬化性一液シーラントの硬化を著しく遅らせることができること(同第六欄第三二行ないし第三七行)や、軽量で嵩張らず、製造コストが低廉であり、コーキングガンによるシーリング作業後の容器を小さくコンパクトにして廃棄物の問題をなくすことができること(同第七欄第二三行ないし第二六行)等の作用効果を奏する。

2 本願発明の充填包装対象物

(1) 成立に争いのない甲第五号証(「建築用シーリング材の選び方と使い方」昭和四二年五月一日株式会社鹿島研究所出版会発行)によれば、同書第三五頁第九行ないし第一五行に、次の記載があることが認められる。

「新しい建築技術に適応した高性能のシーリング材がここ数年間に幾種類か開発され、これらを一般に弾性シーリング材またはシーラント(sealant)と呼んでいる。このシーリング材は施工時には油性コーキング材と同じく、高粘性のペースト状であるが、施工後は常温で硬化(加硫)し、ゴム状弾性を有するようになり、施工表面に強く接着するため、その特徴であるゴム状弾性に注目して、弾性シーラント(elasticまたはelastmeric sealant)と呼ぶことが多い。」

この記載によれば、次の<1>、<2>の事実を認めることができる。

<1>「弾性シーラント」とは、一般に、弾性シーリング材又はシーラントと呼ばれるものについて、その施工後の特徴であるゴム状弾性に注目してそのように呼称されるものであり、施工時に高粘性のペースト状を呈するものである。

<2> この性状は、通常その施工前(貯蔵中も含む)においても同様であり、また施工表面に対し強い接着性を有する。

また、右甲第五号証によれば、同書第七頁に「表1―6建築用コーキング材の分類」の記載があることが認められる。この記載によると、次の<1>、<2>の事実を認めることができる。<1>建築用シール材は、大きく不定形シール材と成形シール材とに分けられ、このうち不定形シール材には、油性コーキング材やアスフアルト系等の非弾性型と、弾性型(弾性シーラント)とがあり、前記シーラントはここでいう「弾性型(弾性シーラント)」に相当するものである。<2>このシーラントには、一液型と二液型とがあり、さらに一液型には無溶剤型と溶剤型とがあり、この無溶剤型の例として、シリコーン系やポリウレタン系がある。

(2) ところで、本願発明では、室温湿気硬化性一液シーラントをその充填包装対象とするものである。右に認定したところによれば、ここでいう「シーラント」とは、その施工前(貯蔵中)には通常ペースト状を呈するものであり、また「一液シーラント」である。したがつて、前記ポリウレタン系等の無溶剤型も含まれる。なお、ポリウレタン系シーラントは、主成分からみると、イソシアネート系接着剤と同一のものであることが、右甲第五号証(「建築用シーリング材の選び方と使い方」)の第三八頁ないし第三九頁及び第四七頁ないし第四八頁の各「(D)ポリウレタン系シーラント」の項の記載及び技術常識に照らして明らかである。そして、右「一液シーラント」は、「室温湿気硬化性」すなわち「室温湿気」(これが、実質上空気中の水分を意味することは明らかである。)により硬化する性質を有する。

(3) また、前掲甲第五号証によれば、前記「建築用シーリング材の選び方と使い方」の第五頁第九行ないし第一四行に次の記載のあることが認められる。

「シーリング材(Sealing material)はシール(seal)する材料の意味であつて、シールは“密封する”、“封印する”などの意である。また、コーキング材(Caulking material)はコーク(caulk)する材料の意味で、間隙を充てんする意である。従つて本来は、シーリング材とコーキング材は狭義では別のものであるが用途が類似しているところから広義ではコーキング材と称し(中略)ている。」

そうすると、シーリング材は広義には、コーキング材を含むものである。他方、前掲甲第二号証によれば、本願発明におけるシーラントについて、別途コーキング材を排除することの記載が本願明細書にないことが認められる。したがつて、本願発明における包装対象であるシーラントすなわちシーリング材は、「室温湿気硬化性」であつて、しかも「一液」のものであればよく、「コーキング材」も含まれるものということができる。

3 第一引用例記載の発明の充填包装対象物

第一引用例に審決認定の事項が記載されていることは当事者間に争いがない。すなわち、第一引用例記載の発明では、「コーキング材のようなペースト材」を充填包装の対象とするものである。

成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例に次の<1>、<2>の記載があることが認められる。

<1> 第二頁左下欄第一三行ないし第一四行に、包装対象である「コーキング材のようなペースト材」に関し、「上記コーキング材としては、油性、水性、溶剤型の公知のあらゆるものが使用可能である。」との記載。

<2> 第四頁左上欄第五行ないし第八行に、「この発明はコーキング材に限らずたとえば印刷インク、接着剤、ギア・オイル、グリース、マヨネーズ、あん、クリーム、チヨコレート等にも適用可能である。」との記載。

これらの記載によれば、第一引用例記載の発明においては、「油性、水性、溶剤型の公知のあらゆる」コーキング材のほか、それがペースト状のものであれば、接着剤も包装対象とし得るものとしていることは明らかである。しかも、イソシアネート系接着剤は接着剤の典型的一種である(この点は技術常識に属する。)、そして、右甲第三号証によれば、第一引用例には、これらの接着剤から、「室温湿気硬化性」のものを別途排除する旨の記載がないことが認められる。したがつて、第一引用例記載の発明における接着剤として、「室温湿気硬化性一液シーラント」の一種であるポリウレタン系に相当するイソシアネート系接着剤が含まれることも明らかである。

4 一致点の認定の誤りの存否

そうすると、本願発明と第一引用例記載の発明とは、ペースト状であるポリウレタン系のシーラント(接着剤)が充填包装され得る旨記載されている点で一致しているというべきである。したがつて、審決が本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を認定するに際して、「充填され包装される物(体)として室温湿気硬化性一液シーラントとコーキング材のようなペースト材とは格別相違するものではない」とした認定に誤りはない。

5 相違点に対する判断の誤りの存否

(1) 前記1(本願発明の概観)で判示したところによると、次の<1>、<2>の事実を認めることができる。

<1> 本願発明は、円筒状容器を構成する樹脂フイルムでは、一般に透湿防止性が完全でないため、実用在庫期間中に室温湿気硬化性一液シーラントが硬化してしまうという致命的な欠点があるという知見に基づく。

<2> 本願発明は、この知見に基づき、樹脂フイルムから成る円筒状容器中の室温湿気硬化性一液シーラントを変質させることなく、長期間保存することを主要な技術的課題とする。

(2) これに対して、前掲甲第三号証によると、第一引用例の第一頁右下欄第九行ないし第二頁右上欄第九行に、第一引用例記載の発明が出願される前のコーキング材の充填方法について記載されていることが認められる。この記載からすると、次の<1>、<2>の事実を認めることができる。

<1> コーキングガンを用いるコーキング材の施工に当たり、空気の巻込みは亀裂の原因になること、コーキングガンは常に清浄に保つ必要があること、あるいは溶剤型、水性型のコーキング材ではコーキングガンの内面に腐食の発生のおそれがあること等の問題がある。

<2> それを解決するものとしてカートリツジ型による充填のものが提案されたが、なお、廃棄物処理等の問題があつた。

そして、右甲第三号証によると、第一引用例記載の発明では、このような従来技術の問題点を解決するため、コーキング材のようなペースト材を軟質合成樹脂製チユーブ(円筒状容器)に充填し、ペースト材両端を閉鎖して成るペースト材入り袋を用意しておき、それをガン操作によるピストンを前進させてノズルからペースト材を押し出す方法を提供したものであること(第1引用例第二頁右上欄第一〇行ないし左下欄第四行)が認められる。

(3) 右(2)でみたところに照らすと、第一引用例記載の発明においては、その発明前の、コーキングガンを用いるコーキング材の施工上の問題点を、コーキング材を軟質合成樹脂のチユーブに入れることにより解決したとするにとどまるものである。したがつて、同発明では、軟質合成樹脂のチユーブ(柔軟な樹脂フイルムから成る円筒状容器)に充填したコーキング材そのものについての技術的課題、特に保存上の技術的課題を認識していたということはできない。

(4) しかしながら、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(「接着技術便覧」(昭和三八年二月二〇日、日刊工業新聞社発行))によれば、同書第一三六頁第三行ないし第七行に、「3. 7. 4イソシアネート系接着剤の長短所と使用上の注意」と題する項目中の記載として次の記載があることが認められる。「反応性の項でも触れたが、水とは反応し易い。しかも水は普遍的に存在し、これとの接触は避け難いので十分な注意が必要である。第一に貯蔵中はもちろん小分け、取出し中に湿気にふれぬよう注意すべきでこの水分は有効なイソシアネートを減少させるのみでなく溶剤に不溶性成分を生じ、ゲル化を促進して使用に耐えなくする。湿気に注意して貯蔵すればイソシアネートは長期の保存に耐えるものである。」

そして、第一引用例に記載の接着剤に、右記載に係るイソシアネート系接着剤も含まれていることは前判示のとおりである。

さらに、「建築用シーリング材の選び方と使い方」(昭和四二年五月一日株式会社鹿島研究所出版会発行)の第五九頁に、弾性シーラントの貯蔵安定性に関し、大抵の規格では四か月から一年と定めている旨の記載があることについては、当事者間に争いがない。

(5) 次に、第二引用例に、審決認定の発明が記載されていることも、当事者間に争いがない。この記載によると、第二引用例記載の発明は、耐熱性樹脂のフイルムで食品を包装し、加熱殺菌し、次いでアルミニウム箔を主体とする包装材料で密封包装する方法に関するものである。

そして、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によると、第二引用例記載の発明の方法で包装される食品は、カレールウ、シチユー、ミートソース等のペースト状タイプのものが代表であつて、その他一定の形状を有するもの、さらには、果物も含まれるとされているものであること(第二頁右下欄第五行ないし第一〇行)が認められる。

これらの食品は食品である以上、当然のことながら、水分が含まれているものと認められる。また、第二引用例記載の発明は、最初に加熱殺菌してそれを長期保存するために、外気遮断性のよいアルミニウム箔を主体とする包装材で密封包装して食品の品質劣化の要因である空気、光等の侵入を防止しようとするものであることについては、当事者間に争いがない。

そして、右甲第四号証によると、第二引用例の第二頁左上欄第三行ないし第八行に、次の記載があることが認められる。「一方アルミ箔の入つていない透明又は半透明なラミネートフイルムは、アルミ箔に原因する上記の欠点はないが、遮光性、ガス遮断性、水蒸気遮断性等の保存特性がアルミ箔の入つているラミネートフイルムより著しく低く、包装食品を保存するためには種々の面で劣つて」いる。

(6) ところで、前掲甲第二号証によれば、本願発明の要旨にある、「室温湿気硬化性一液シーラント」を充填する「厚さ二五~二五〇ミクロンの柔軟な樹脂フイルムから成る円筒状容器」を構成する樹脂フイルムに関し、本件出願公告公報の第四欄第三五行ないし第四〇行に、次の記載があることが認められる。「たとえば、ポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルム、ポリ塩化ビニリデンフイルム、塩化ビニリデン―塩化ビニル共重合フイルム、ポリ塩化ビニルフイルム、ポリアミドフイルム、ポリエステルフイルム、あるいはこれらのフイルムを組合せたラミネートフイルムなどが適用できる。」

すなわち、本願発明における、柔軟な樹脂フイルムから成る円筒状容器は、ラミネートフイルムを含む。

そして、前記(4)、(5)でみたところを総合すると、次の<1>、<2>の事実を認めることができる。<1>イソシアネート系接着剤と同等のものであるポリウレタン系のシーリング材(本願発明の室温湿気硬化性一液シーラントはその典型的一種としてこれに含まれる。)は、貯蔵(長期保存)に際して湿気に注意する必要のあるものであること、<2>ラミネートフイルムが湿気に対する遮断性に弱いことは技術常識に属する事項であること。

そうすると、本願発明でも採用されているラミネートフイルムから成る円筒状容器では、室温湿気硬化性一液シーラントを長期保存するに際して考慮すべき湿気に対する遮断性が弱いという点は、当業者にとつて自明な事項又は容易に思い付くところであつたということができる。したがつてまた、前記(1)で判示した本願発明の技術的課題に想到することも、当業者にとつてさして困難を伴うことではなかつたというべきである。

そして、審決が認定しているように、「一般に包装を二重、三重、……と念入りにするとそれだけ被包物の品質が長時間維持されること」も、経験則上自明である。したがつて、第一引用例記載の発明の軟質合成樹脂製チユーブへの充填包装を、更に第二引用例記載の発明におけるアルミニウムラミネート樹脂フイルムで外装する点を、当業者が想到することは容易なことであつたと認めるのが相当である。

(7) そうすると、本願発明と第一引用例記載の発明との間の、外装に関する技術的事項の存否の点の相違点について、「第一引用例記載の発明と第二引用例記載の発明を組み合わせることは容易に実施し得るところと認めざるを得ない。すなわち前記一応の差異は格別のものとは認められない。」とした審決の認定、判断は正当であり、審決は、本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点の判断を誤つたとする原告の主張は理由がない。

6 まとめ

以上の次第であるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、本願発明は、第一引用例記載の発明と第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとした審決の認定、判断に誤りはないというべきである。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

室温湿気硬化性一液シーラントを厚さ二五~二五〇ミクロンの柔軟な樹脂フイルムから成る円筒状容器に充填し、該円筒状容器の開放端部を絞つた状態に糸状物により結紮シールして充填包装物に形成し、この充填包装物一本以上を、アルミニウムラミネート樹脂フイルム又はアルミニウム蒸着樹脂フイルムにより外装し、該外装フイルムの重合部を加熱又は接着剤で接着して内部を気密シールして成ることを特徴とするコーキングガン用室温湿気硬化性一液シーラント包装体。

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